2章
借地権・借地編
借地の問題点
借地権の問題点として以下のようなものがあります。
・地代を地主に払わないといけない
借地権付き物件のメリットとして、不動産の購入価格が安いことが挙げられますが、その代わりに借地権付き物件では地代を地主に払わなければならなくなります。総合的に見れば借地権付き物件のほうが経済的メリットはあるかもしれませんが、マイホームなのに地代の支払いをすることは抵抗を感じる人も多いでしょう。
・銀行の融資を受けにくくなる(住宅ローンなど)
借地権は土地の所有件ではないため、担保としての価値は落ちてしまいます。そのため銀行の融資を受けにくくなる場合があります。
・リフォームや建て替えする場合、地主の許可がいる
建て替えやリフォームをする際は、地主の許可を得なけらばいけないパターンが多いです。また規模によっては地主に支払いが必要な場合もあります。
・権利の問題で地主とのトラブルになりやすい
地主との契約は昔からの口約束となっているところも多く、契約書を作成していないケースもよくあります。地代改定・契約更新料の支払いトラブル、土地に対する権利を地主と借地人が二重構造的に有している面があるため、建て替え承諾料など利用や処分においてさまざまなトラブルが生じやすいです。
借地人の選択肢
以上のように借地にも問題点が多く存在します。このような問題に対して家主様がとることができる手段は以下のようなものがあります。
1.現状維持
地主が底地の売却を希望する際に応じる、もしくは借地権が設定された土地を利用したい場合などにこの方法を使用します。 通常、借地権を第三者に売却する場合には、売却価格の10%以上を譲渡承諾料として、地主に支払う必要があります。借地人が底地を買い取って所有権として売却できれば、譲渡承諾料を支払う必要がありません。
メリット
土地が完全所有権になることによって担保価値が飛躍的に増しますので、建物の建て替えなどの有効活用などが容易になり、借地権よりも選択肢が広がることが挙げられます。
デメリット
底地を買い取るための資金が必要になることです。
よく言われることですが、底地と借地権の価格は単独の時よりもお互いが合算したときのほうが価格(価値)が上がります。 仮に時価が坪100万円で借地権割合が60%の土地があったとします。この場合、借地権を第三者に売却しようとした場合の坪単価は100万円×0.6=60万円にはなりません。通常はこれから20~30%ダウンした価格になります。また底地を第三者に売却しようとした場合の坪単価も40万円にはならず、10万円~20万円とダウンしてしまいます。
2.借地権を第三者に売却
通常、借地権を第三者に売却する場合には、売却価格の10%以上を譲渡承諾料として、地主に支払う必要があります。 また底地の購入で説明したとおり、借地権を第三者に売却する際の価格は更地に借地権割合を掛け算した価格よりも安くなる可能性が高いと考えられます。 不動産を購入する多くの人は所有権を望んでいることと、建物の新築、改築、増築時などに地主に承諾料を支払うことに対する抵抗感が強いからです。 また借地権付建物に対する融資条件も所有権のそれと比較して格段に悪くなります。 ただし、地主が寺や神社などの宗教法人の場合には、個人地主の場合と比較して前記のデメリット面が弱まる傾向にあります。
3.借地権を地主に売却
借地人の賃貸借期間が数十年に及ぶことも珍しくありません。 その場合には、地主に借地権を買い取ってもらう、もしくは底地と借地権の同時売却という手法が望まれます。 一般的に地主は先祖代々の土地という意識が強く、土地を売却することに躊躇する傾向がありますので、同時売却よりは借地権を買い取ってもらうほうが可能性が高いと言えます。 ただし、地主が借地権を買い取る現金を保有していないことも少なくありませんので、この手法が実現するか否かはタイミングしだいと言えます。 この手法を実行する際には借地人が直接、地主と交渉するよりは仲介者を立てたほうがベターと思われます。 「安い地代で土地を貸しているのだから、借地人が土地を使わないのであれば、更地にして返すのが当然だ」と考える地主も少なくありません。 したがって、第三者が関与することによって感情的なしこりをほぐすことから交渉を始める必要があります。 また、借地権の更新料を支払わずに法定更新を重ねてきた場合などは、この手法を採用できたとしても、価格面で不利な条件を提示されることを覚悟すべきです。日頃から地主とは可能な限り、良好な関係を構築しておくことが求められます。
4.借地権と底地を第三者に同時売却
底地と借地権の価格は単独の時よりもお互いが合算したときのほうが価格(価値)が上がります。 従って、同時売却という手法を採用できれば、借地権も底地も売却価格としては他の手法よりも高くなります。 ただし、この場合において借地権、底地の割合に関して、借地人、地主間でもめることが少なくありません。 割合のベースとなるのは国税庁が公表している路線価図に記載されている借地権割合ですが、それに更新料の支払いの有無、権利金の授受の有無、借地権の残存期間などを勘案して、割合を決めていきます。 例えば:土地の売却価格が坪100万円で借地権割合が6割の土地あったとします。 借地権者がこれまで更新料を支払わずに今日に至っている場合には、底地割合を1割加算して、底地権、借地権をそれぞれ5割である坪50万円で計算した価格とする考え方です。 この手法は、地主、借地権者の両者ともが売却を同意しなければならないため、タイミングが限られていると言えます。 多くは賃貸借の更新時期や、地主・借地権者に相続が発生した時期です。 タイミングがあえば、地主・借地権者の双方にメリットがあるため、双方はこの手法が可能か否かを検討すべきであると思います。
5.借地権と底地を交換
底地と借地権を等価交換し、土地を一定の割合で地主と借地人の間で分ける方法です。 底地(借地)の面積が大きく、建物が乗っていない土地の面積が広く、接道条件が良い場合などに採用されます。 例えば国税庁公表の借地権割合が60%で面積が80坪の以下のような土地があったとします。 借地権と底地を交換し、借地人の自宅が建っている部分の敷地40坪分の土地所有権が借地人名義となり、庭部分の敷地40坪分の土地は地主が完全所有権を取得します。 借地権割合は60%ですが、10%分を地主に対する名義変更料と考え、権利割合を50%づつとすることが実務上の慣行となっていることが少なくありません。 上記例では地主は40坪分の敷地を有効利用して、アパート等を建築したり、駐車場とすることが運用したり、更地として第三者に売却するなどの手法をとるケースが多々見受けられます。 所得税法58条により、借地権と底地を交換する際には、一定の条件を満たせば譲渡所得の交換の特例を受けることができます。 これは固定資産である土地や建物を同じ種類の資産と交換したときは、譲渡がなかったものとする特例であり、これを固定資産の交換の特例といいます。 この特例の要件の一つに、交換する資産は互いに同じ種類の固定資産でなければならないとする要件があります。 同じ種類の固定資産の交換とは、例えば、土地と土地、建物と建物の交換のことです。 この場合、借地権は土地の種類に含まれます。 したがって、地主が建物の敷地として貸している土地、いわゆる底地の一部とその土地を借りている人の借地権の一部との交換も、土地と土地との交換になり、その他の要件にも当てはまれば、固定資産の交換の特例を受けることができます。 詳しくは、国税庁の以下のサイトで御確認を御願いいたします。
No.3502 土地建物の交換をしたときの特例 : http://www.nta.go.jp/taxanswer/joto/3502.htm
6.地主と共同事業
商業地で容積率が高い場合に行われる手法です。 借地権者が所有している建物をビルやマンションに建て替え、土地と建物を地主と借地人が共有することになります。 建物の建築資金をデベロッパーやゼネコンが提供し、建物完成後には、地主・借地権者・デベロッパーもしくはゼネコンが資金負担の割合に応じて専有床面積を保有するという事業手法を採用することが一般的です。 資金負担なし 借地人と地主は建設事業費を自己資金で用意する必要がありません。 賃貸借関係の解消:借地人と地主は共同事業を行う機会に賃貸借関係を解消し、土地は地権者の共有関係に移行していきます。 専門家のノウハウ活用:建物の設計、行政及び近隣折衝、テナントの誘致等の専門的あるいは複雑な業務をデベロッパー等に依頼できます。 収益の安定性:建築事業費を負担する必要がないので、還元された床を賃貸物件として活用できれば、安定的な収益を確保できます。 相続対策完成された建物は区分登記されますので、相続が発生した際には遺産分割がしやすくなります。 新たに建築する建物に関して、地主やデベロッパーと合意するまでにかなりの時間を要してしまうことなどです。 関係者の数が多ければ多いほど、その傾向が強まります。 また、借地人と地主の関係が良好で、駅近くもしくは幹線道路沿いの商業地がこの手法の適地と考えられます。 さらに、この手法を実行する際には、建築事業資金を負担するデベロッパーなどに事業のプラン作成と実行支援を完全異存せずに、数字を中立的に検証できるコンサルタントにコーディネートを依頼すべきです。