約40年ぶりに相続法改正。

相続問題

平成30年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)が成立しました。 そして令和元年7月1日、この改正法の相続関係の大部分が施行されています。

相続法改正

平成30年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)が成立しました。
そして令和元年7月1日、この改正法の相続関係の大部分が施行されます。
昭和55年に改正された以来、約40年ぶりの改正です。そのため、それぞれの規定について、準備に要する期間などがそれぞれ考慮され、段階的に施行されることに決まったと発表されています。
このとおり、平成31年1月13日に既に効力が生じているもの(自筆証書遺言の方式を緩和する方策についての改正)や、令和2年4月1日に効力が生じるもの(配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等)もありますが、大部分の施行日は次のとおり令和元年7月1日です。

施行日

-平成31年1月13日-
・自筆証書遺言の方式を緩和する方策

-令和元年7月1日-
・配偶者保護のための方策(特別受益の持戻し免除の意思表示の推定規定)
・遺産分割前の払戻し制度の創設等
・遺留分制度に関する見直し
・相続の効力等に関する見直し
・相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
・遺言執行者の権限の明確化等
・遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲

-令和2年4月1日-
・配偶者居住権(新設)
・配偶者短期居住権(新設)

配偶者の保護

特別受益の持戻し免除の意思表示の推定規定

今回の改正においても、配偶者が従来よりも法律によって保護される方向で、相続法の規定が見直されました。
配偶者の保護といえる改正の一つは、令和元年7月1日に施行されるものとして記した1つめ、「特別受益の持戻し免除の意思表示の推定規定」がおかれたことです。

「特別受益の持戻し」とは

生前に何らかの贈与があった場合、その贈与は、通常、遺産の先渡しがなされたものとして扱われます。これを受け取った人からみて、法律用語で、「特別受益を受けた」といいます。
例えば、親子の関係を想定しても、親が、子が事業を始めるにあたってその資金を援助したり、子がマイホームを購入する資金を援助したりと、特別な援助をするケースは様々考えられます。
このような特別な援助があったとき、この金額を考えることなく、亡くなった人のものとして残された財産をただ分割すればよいのだとしたら、援助を受けた人と受けていない人を公平に扱うことはできるでしょうか。例えばその特別な援助が、これという理由もなく、亡くなる前日になされたものであったらどうでしょうか。
この特別な援助について、亡くなった人が特別受益の持戻し「免除」の意思を示していないのであれば、相続人らを公平に扱うために、生前に贈与された財産の価格を考慮(特別受益の持戻し計算)して遺産の分割を行います。生前に贈与された財産の価格を考慮することを「特別受益の持戻し」といいます。
具体的には、相続財産にその特別受益の金額を加えたものを相続財産とみなし、これを基礎に相続人の相続分を算定します。
遺贈(遺言による贈与)の場合も同様に、遺贈された財産の価を考慮し、持戻し計算をします。

特別受益の持戻し「免除の意思表示」とは

特別受益の持戻し免除の意思表示とは、そのままですが、特別受益の持戻し(計算)をする必要はありません、という意思表示です。
方式は特に定められていませんので、生前贈与の場合には、特別の方式によらなくてもよいといえます。しかしながら、実際問題、言われた、言われていない、といったトラブルを招くことは簡単に想像ができるでしょう。多額の財産がからむことですので、実際には、書面に残すのが一般的です。
遺贈の場合にはこの「免除の意思表示」も遺言によって行いますが、生前贈与の場合でも、遺言書に記しておくなど書面で残しておくことが望ましいです。
なお、一度この意思表示を行った場合でも、意思表示を行った者は、それを自由に撤回することができると考えられています。
また、この意思表示がなされたとしても、遺留分算定にあたっては、遺留分算定の基礎となる財産額に加えられ、遺留分減殺の対象になると考えられています(最決平成24年1月26日)。

改正(持戻し免除の意思表示の推定規定がおかれたこと)による変更点

これまでの制度では、婚姻期間の長い配偶者の間で、一方から一方に住んでいる家や土地の名義を変えることも特別受益とされていました。そのため、これと別に持戻免除の意思表示がなされていなければ、持戻し計算をする必要がありました。
この点、改正によって、次の2つを満たせば、特別受益の持戻し免除の意思表示が推定され、持戻し計算をしなくてよいことになりました。

1.婚姻期間が20年以上あること
2.「居住用」の建物や敷地を生前贈与した、または遺贈した(その内容の遺言が残された)こと

事例で確認

この改正によってどう変わるのか、事例でみてみましょう。
なお、持戻し免除の意思表示は特になされていなかったものとします。

A太さん(夫)、B子さん(妻)は婚姻期間30年の夫婦です。
A太さん・B子さんの間には子供が2人います。
A太さんはマンションを所有していました。
子供たちが成人するまでは子供たちと3、4人で、その後はA太さんとB子さん2人で、そのマンションに住んでいました。
A太さんは生前にこれをB子さんに贈与しました。
A太さんが亡くなり、相続財産は4000万円でした。
生前贈与されたマンヨンの評価額は2000万円でした。

民法で定められている相続割合(法定相続割合)は、次のとおりです。
本事例のように妻と子が相続する場合、妻の相続割合は2分の1です。子の相続分は、子全員で2分の1ですので、この2分の1について、子の数で割り、子1人あたりの相続割合を算出します。本事例では、子は2人ですので、子1人あたりの相続割合は4分の1です。

■改正法施行前(令和元年6月30日まで)
B子さん(妻)は、生前贈与2000万円と相続財産1000万円の計3000万円を、2人の子はそれぞれ相続財産1500万円ずつを取得することになります。
このとおり、持戻し計算がなされた結果、妻の遺産相続分が減ってしまいます。

改正法施行後(令和元年7月1日まで)
B子さん(妻)は、生前贈与2000万円と相続財産2000万円の4000万円を、2人の子はそれぞれ相続財産1000万円ずつを取得することになります。
このとおり、今回の法改正によって特別受益の持戻しが免除されたことで、妻は、遺産を法定相続割合どおりに相続することができます。

配偶者居住権など

配偶者の保護といえる改正のもう一つは、「配偶者居住権」、「配偶者短期居住権」(令和2年4月1日施行)が新しく設けられたことです。
こちらも日を改めて解説したいと思います。

昭和55年の改正でも・・・

「今回の改正においても」、配偶者が従来よりも法律によって保護される方向で、相続法の規定が見直されたと記しました。
昭和55年の改正では、これも配偶者が保護される方向で、配偶者の法定相続割合が見直されたのです。
昭和55年に改正されるまでは、配偶者の法定相続割合は、①子と共に相続する場合には3分の1、②直系尊属(夫の遺産を妻が相続する場合の、夫の実親です)と共に相続する場合には2分の1、③兄弟姉妹(夫の遺産を妻が相続する場合の、夫の兄弟姉妹です)と共に相続する場合には3分の2と指定されていました。

この点が改正によって、①子と共に相続する場合には2分の1、②直系尊属と共に相続する場合には3分の2、③兄弟姉妹と共に相続する場合には4分の3に変わりました。
配偶者が生存していれば配偶者は必ず相続人になること、子が生存していれば子が第1順位の相続人に、子がいない又は先に亡くなっている場合には直系尊属が第2順位の相続人に、直系尊属が先に亡くなっていれば兄弟姉妹が第3順位の相続人になることについては、改正前後で変わりはありません。なお、昭和55年の改正によって、兄弟姉妹が相続人となる場合の代襲相続人の範囲が兄弟姉妹の子(被相続人にとって甥・姪)に制限されました。

登記の視点から

不動産を売りたいものの名義が曾祖父母、というようなケースは多いと思います。
昭和55年よりも以前に亡くなったケースも少なくないように思います。
遺言が残されていたり、相続人またはその相続人(相続人も亡くなり、遺産分割が未了であった場合に、遺産分割協議をおこなう地位を相続によって承継した人)により遺産分割協議がなされたりするのであれば、法定相続分で登記をする必要はありませんので、不動産売買の前提におこなう相続登記に問題が生じることもありません。
反対に、遺言がなく、遺産分割協議もなされない場合は、相続登記を法定相続分によりおこなうことになりますので、注意が必要です。この「昭和55年」にも気をつけるとよいでしょう。

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